データを活用したレコメンドメールのススメ
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レコメンドメールとは何か
よく利用するECサイトでネットサーフィンをしたり商品購入をしたりすると「あなたへのオススメの商品」というメルマガを受け取ったことがある方はいらっしゃると思います。
ちょうど欲しかった商品や、以前買おうと思っていたけど忘れていた商品を勧められてついつい購入してしまったという方も多いのではないでしょうか。
ECサイト会員の購買履歴や属性、サイト内での行動履歴などに合わせて一人一人異なる商品をオススメするのがレコメンドメールです。
このメールはユーザーの趣味趣向に合わせて自動配信されているメールで、わざわざオンラインショップ担当者が手動でメールをセットして配信しているケースはほとんどありません。レコメンドメールはちょうど欲しかった商品を訴求する(顕在化したニーズを刈り取る)だけではなく、まだ顕在化していない(自分でも認識していない)潜在的なニーズも探りクロスセルやアップセルを促せることからメールマーケティングにおいて非常に効果的な配信手法です。現在ではAmazon、楽天、Yahoo、メルカリなど多数の会員を抱えるBtoCECサイトやCtoCサイトでは頻繁に活用されており、CRM/MAツールを活用されているECサイトの多くでも売り上げを作る施策として重要視されています。
レコメンドメールが可能になった背景
では、このレコメンドメールはなぜここまで一般的に普及することになったのでしょうか。それにはIT技術の進化、特にAIの登場とデータ取得環境の整備が上げられます。時は遡る事2000年代初頭、スマートフォンの普及により人々はどこにいてもインターネット環境に接続できるようになります。あらゆるものがインターネットに接続する時代において消費者に対する様々なデータを取得することが可能になります。同時に取得したデータもクラウドコンピュータ上に低コストで保管することができるようになったため、大量のデータをAIの高度なアルゴリズムをもって解き明かしマーケティングに役立てようという動きが活発化します。コンピュータの処理能力の向上もとどまることを知りません。AI(人工知能)は機械学習、ディープラーニング(深層学習)といった言葉とともに扱われ、大量のデータを24時間365日休まず正確に計算することができます。あたかも人間が頭で考えたようなデータの統合、分析、予測(類推)といったプロセスを瞬時に正確に行うことができるため、AIをビジネスに活用する動きが活発になります。
データの収集及び分析
レコメンドメールに話を戻すと例えば消費者が外出先のECサイトで商品購入をした際に、消費者の属性、過去の購入履歴、消費者のサイト上での行動履歴等様々なデータ等がデータベース上に蓄積されており、それをAIがインプットして深層学習を行いデータからの類推やモデルの選択・推論等を行います。
消費者が直近閲覧していた商品、過去の購入履歴、購入スパン、追加購入商品や組み合わせ等情報をAIがインプットし分析によって得られた結論を元に「この消費者はこのタイミングでこの商品を勧めれば購入確率が高くなる」とアウトプットします。アウトプットされた商品が自動的にメールに差し込まれレコメンドメールとして配信されます。そして予測を実行した結果(消費者の反応)をフィードバックしさらにインプットしていくのです。この流れを絶え間なく行うためより精度の高い予想・分析が可能となるため、より消費者に寄り添ったきめ細やかなオススメをさりげなく行うレコメンドメールが可能になります。
データ=石油?
レコメンドメールを配信する際には様々なデータを組み合わせて予測を行うためデータの取り扱いが重要になります。
21世紀の情報化社会においてデータは石油に例えられます。
①世界中に存在するが「採掘/収集」できなければ利用できない。(情報の整備)
②「採掘/収集」できたとしても「精製」できなければ活用できない。(情報の加工)
③「備蓄」に設備とコストが必要(情報の格納)
④利用法を間違えると「炎上」する。(情報の保護)
いつでも必要なデータが必要なタイミングで引き出せるようになっていなければ活用ができません。
レコメンドメールの様なパーソナライズされたメール配信を可能にするには顧客にすべてのデータを紐づけて管理するシステム環境の構築が求められます。
データ統合のプラットフォームの活用
デジタルマーケティングを重視する企業の中には消費者(顧客)のデータを顧客を軸として一元管理するためのカスタマー・データ・プラットフォーム(Customer Data Platform、以下CDP)を活用するケースが目立ちます。CDPは顧客一人ひとりの属性データや行動データを収集・統合・分析するデータプラットフォームのことで、顧客理解の深化や顧客データ活用の幅を広げるための基盤として必要不可欠です。前述のとおりスマートフォンの普及により企業と顧客接点が増える中で膨大な量のマーケティングデータが散在しています。それを顧客起点として統合一元管理することで顧客一人ひとりをより具体的にイメージできるとともにマーケティング活動を効率的にすすめることが可能になります。
CDPが重視されている背景としては、画一的なセグメンテーションとは異なり顧客一人ひとりをより深く理解しようとする企業側のニーズがあります。顧客の価値観や趣味趣向が多様化する現代社会において顧客ニーズを可視化し顧客理解をより深めたいと考える企業が増えています。
メッセージ配信一つにしても企業からの一方的に配信する画一的なメールよりも顧客ひとり一人の状況に合わせたレコメンドメールの方が情報を受け取る側のノイズにならず尚且つ、有益な情報を届けてもらえると認識されます。
今後のCRM領域は顧客中心主義
ECサイトがCDPを活用する場面としては主にCRM領域になります。
今までCRM施策の一環として顧客をセグメンテーションしメッセージ配信を行っていましたが、CRM領域でCDPを活用することで個人プロファイルに様々なデータを紐づけることが可能となり単なるセグメントではなく実在する一個人としての顧客をとらえることが可能となります。これにより顧客ひとり一人に合ったマーケティングコミュニケーションが可能となります。具体的にはレコメンドメールのように顧客の興味関心に合わせて各個人のタイミングを見計らいメールやLINEでのメッセージの出し分けをすることも可能となります。最近ではECサイトにおいてCDP機能をCRM/MAツールと連携し顧客へのメッセージ配信を行うECサイトが増えてきています。
まとめ
顧客ひとり一人に合わせたオススメ商品を紹介するレコメンドメールが一般的になった理由すなわちAIを含めたIT技術の進歩と顧客データの取得環境が充実してきた点を述べました。ITテクノロジーを駆使することによりメール1通を取ってみても顧客にストレスなく購入を促す販促が可能となっており、成長するEC企業は貪欲に自社の顧客データを活用するためのIT投資を行っています。最近ではAI技術やCDPといったものの大企業だけのものではなく中小企業においても手軽に活用できる時代になってきています。ECサイトにおいて新規顧客獲得が年々困難になってきている時代だからこそ今手元にある顧客データの見直しとデジタルテクノロジーに立脚した企業戦略が求められます。