ECのCRMはどこまでAIに任せられるのか

-配信作業を自動化し、顧客理解に時間を使うという発想

生成AIの登場によって、EC運営の現場は急速に変化しています。広告運用、商品説明の作成、カスタマーサポートなど、これまで人が担っていた業務の多くがAIによって効率化されるようになりました。

その中でも特に注目されているのが、CRMの自動化です。

「顧客分析をAIが行う」
「メールやLINEの文面をAIが作る」
「配信タイミングをAIが最適化する」

こうした取り組みはすでに多くのEC企業で始まっています。

では、ECのCRMは最終的にどこまでAIに任せられるのでしょうか。そして、どこまで任せるべきなのでしょうか。

結論から言えば、CRM業務の多くは自動化できるようになるでしょう。しかし同時に、すべてをAIに任せるべきではない領域も明確に存在します。

重要なのは、「AIか人か」という選択ではなく、役割をどう分担するかです。

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CRM担当者が抱えている本当の課題

ECのCRM担当者に話を聞くと、多くの人が同じ悩みを口にします。

「CRMの仕事は忙しい」

しかしその忙しさの多くは、顧客理解や戦略設計ではなく、運用作業に費やされています。

ある健康食品ECのCRM担当者は、こう話していました。

「CRMの仕事は顧客を理解することだと思っていたんですが、実際は配信準備に追われています」

例えば、典型的なCRM施策の流れは次のようなものです。

  1. 購買データから対象顧客を抽出
  2. 配信対象リストを作成
  3. メールやLINEの文章を作る
  4. 配信設定を行う
  5. 配信結果を集計する
  6. レポートを作成する

一つひとつは特別に難しい作業ではありません。しかし、この作業が毎週のように繰り返されると、かなりの時間がかかります。

その結果、本来CRMで最も重要なはずの

  • 顧客分析
  • LTV改善の戦略設計
  • ブランド体験の設計

といった仕事に十分な時間を使えなくなってしまうのです。

CRM業務の多くはすでに自動化できる

ここ数年で、CRMを取り巻く環境は大きく変わりました。

現在では、CRM業務の多くをシステムやAIが担えるようになっています。

例えば、次のような施策です。

  • 初回購入後のフォローメール
  • レビュー依頼
  • カート放棄リマインド
  • 休眠顧客の掘り起こし
  • 購入周期に合わせたリピート提案

これらは、顧客の行動をトリガーにしたシナリオ配信として自動化することが可能です。

一度シナリオを設計すれば、顧客が行動したタイミングで自動的に配信されます。

さらに生成AIの登場によって、

  • メール文面の下書き
  • セグメント分析
  • レポート作成

といった作業も効率化できるようになりました。

つまりCRM業務の中でも、運用作業の多くはすでに自動化できる時代になっているのです。

自動化がもたらした意外な変化

興味深いのは、CRMを自動化した企業の多くで、CRM担当者の役割が変わっていることです。

あるアパレルECでは、CRMのシナリオ配信を導入したことで、配信作業の工数が大幅に削減されました。

しかしCRM担当者の仕事が減ったわけではありません。

むしろ新しい仕事が増えました。

それは、顧客データを深く分析することです。

例えばそのECでは、購買データを分析した結果、次のことが分かりました。

初回購入から45日以内に2回目購入した顧客は、LTVが3倍以上高い。

この発見をもとに、初回購入後のフォローシナリオを見直しました。

  • 購入後のコンテンツ配信
  • 商品の使い方紹介
  • リピート提案

これらを45日以内に集中させるようにしたのです。

その結果、リピート率が改善しました。

ここで重要なのは、この改善はAIが自動で見つけたわけではないということです。

自動化によって生まれた時間を使い、人が顧客を理解した結果でした。

CRMで最も重要なのは「ブランド体験」

CRMの自動化について考えるとき、もう一つ忘れてはいけない視点があります。

それが、ブランド体験です。

CRMは単なる販促ではありません。顧客との継続的なコミュニケーションです。

ある食品ECの担当者は、こんなことを言っていました。

「CRMは顧客との会話だと思っています」

メール、LINE、SMS。これらのメッセージは、顧客とブランドの関係を作る接点でもあります。

そしてこの部分こそ、ブランドの人格が最も表れる場所でもあります。

どんな言葉で伝えるのか。
どんな距離感で接するのか。
どんな価値観を届けるのか。

これらはブランドごとに異なります。

しかしもし、このコミュニケーションを完全にAIに任せてしまうとどうなるでしょうか。

AIは過去の大量データから「最適解」を導き出します。その結果、効率的なメッセージは生まれます。

しかし同時に、ブランドごとの個性は薄れていく可能性があります。

なぜなら、AIが最適化するほど、コミュニケーションは似てくるからです。

つまりCRMのブランド体験までAIに任せてしまうと、ブランドは徐々に均質化してしまうのです。

だからこそ、この部分は人が設計する価値があります。

AI時代のCRMは「役割分担」が鍵になる

では、AI時代のCRMはどのような形になるのでしょうか。

一つの方向性は明確です。

自動化できる業務は徹底して自動化する。

例えば、

  • 配信オペレーション
  • セグメント作成
  • レポート作成
  • メール文面の下書き

これらはAIやシステムが担うべき領域です。

一方で、人が担うべき仕事もあります。

  • 顧客理解
  • シナリオ設計
  • ブランド体験の設計
  • LTV向上戦略

つまりAIの役割は、CRMを代替することではありません。

CRM担当者が本来やるべき仕事に集中できる環境を作ることです。

CRMの価値は「人が考える部分」にある

ECのCRMは、これからさらに高度化していくでしょう。

AIによって運用作業は減り、CRMはより戦略的な仕事になっていきます。

しかし最終的に重要になるのは、やはりこの問いです。

顧客とどんな関係を築くのか。

この問いに答えるのはAIではありません。

AIができるのは効率化です。関係を作るのは人です。

だからこそ、AI時代のCRMで重要なのは

どこまで自動化するかではなく、
自動化によって何に時間を使えるようになるか

なのだと思います。

AIに任せる仕事と、人が担う仕事。
その役割分担ができたとき、ECのCRMは本来の価値を発揮するのではないでしょうか。

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執筆者情報

中村 隆嗣 中村 隆嗣

株式会社ファブリカコミュニケーションズ アクションリンクチーム 部長

2003年に北国からの贈り物へ入社。自社サイトの立ち上げから参画し月商3億円を超える成長まで導く。楽天/Yahoo!/Amazon/ぐるなびなど全店のマーケティング戦略責任者として各モールにおいて数々の賞を受賞。 2014年株式会社メディックスに入社し、年商2500億規模の大手製薬会社や外資系アパレルブランドなど、メーカー直販ECの事業コンサルティングを手がける。 コンサルティング先で多く見られたCRMの課題を解決すべく、2018年アクションリンクを立ち上げ、2023年ファブリカコミュニケーションズにジョイン。現在に至る。

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